走行距離52,437km。ここから私とセリカさん(ST165)の歴史が動き出します。
後編では、秋田から千葉までのロングドライブを通じて見えてきたWRCの血を引くフルタイム4WDの真価、そして現代のガジェット「Echo Auto」との融合についてレポートしたいと思います。……と言いたいところですが、現実はそう甘くはありませんでした。
容赦なく襲いかかる「カフェインの呪い」と、刻一刻と変化する常磐道の景色。予定を大幅に超過した、11時間半の濃密な記録をここに記します。
もう一人の旅の相棒
実はメカ丸のほかに、もう一人旅のお供を連れてきていました。Echo AutoのAlexaです。
Twingoはディスプレイオーディオがデフォルトで、CDなどのメディアは再生できません。USBケーブルかBluetoothでスマホを接続し、ハンドルスイッチと操作レバーでソースの切り替え・音量調整・曲の切り替えができ、一応音声操作も可能でした。

セリカさんはナビゲーションユニットに換装されていますが、最近の車と異なり位置が低く、操作しにくいことは事前に予想していました。2DINサイズなので昨今のタブレットのような大画面ではなく、画面の下縁にTILT・AUDIO・音量などの物理ボタンが並んでいますが、いかんせん遠くて小さい。ナビはGoogleマップを使いたかったので、自然と別の操作手段を探すことになりました。

そこで目を付けたのが、Amazon Echoの車載版であるEcho Autoです。端的に言えば、スマホを音声で操作し、Bluetooth接続したカーオーディオから音を出しているだけなのですが、Alexaの音声認識力とドン引きしそうなダジャレは長距離ドライブのお供として優秀です。人類には早すぎる相棒かもしれませんが、Twingoで動作とコマンドを確認したものをセリカさんのエアコン吹き出し口に取り付けました。

キーを捻ると図太い音とともにエンジンが目を覚まします。車内に流れる若干のガソリン臭が私の感性に訴えかけてきます。「僕はガソリン臭くてね、燃費が悪くてね、音がいっぱいでるクルマが好き」 そんな豊田章男氏の言葉が頭よぎりました。
出発、そしていきなりのトラブル
メカ丸を助手席に座らせ、敷地内のセリカたちの間を緊張しながらすり抜け、石川さんに見送られて一路千葉へと出発です。オドメーターの数字は「52437」。ここから私とセリカさんの歴史を刻んでいくことになります。

これから690kmの道のり。まずは腹ペコのセリカさんに給油をしなければなりません。最寄りの出光でレギュラーを満タン給油。レギュラー指定なので素直にレギュラーを入れます。フルサービスのスタンドなんて久しぶりです。
久しぶりのVIP気分を味わっていると、石川さんから電話が入りました。「書類忘れてますよ〜」。なんてこった。「スタンドなのですぐ取りに行きます(笑)」給油を終えついさっきお別れをしたばかりの寿自動車に戻り書類を受け取りました。――その節はご迷惑をおかけしました。
強強打破という名の罠
書類を受け取り、ファミリーマートで道中のお供を買い出し。ここで撮影したのが記念すべき一枚目です。そして深夜バスでの移動とこの先の長時間運転を考慮し、眠眠打破の強力版・強強打破を一本補充しました。強強打破。それは私にとって、特級呪物に他ならなかった。

いつもはGoogleマップをナビにしていますが、まだスマホホルダーがないためセリカさんのナビに自宅位置をセットしてファミリーマートを後にします。見づらいとは言っても音声案内はしてくれるし基本高速道路なので問題ないはずです。今度こそ千葉に向けて出発、秋田自動車道の能代南入口を目指して走り出しました。走行距離は690km、所要9時間を予定しています。現在時刻は12:00なのでノンストップでの到着予定は21:00ですが、途中休憩もあるので「今日中に着けばいいか」くらいの気持ちで走り出しました。
ファーストインプレッション
前車のRenault TwingoもMTだったので、MT車の扱い自体は特に苦になりません。まず気になったのはクラッチの軽さで、重めを想像していただけに拍子抜けするほどでした。シフトはストロークが長くやや渋い印象ですが、完調を知る由もないのでこれが素性なのかもしれません。最初のうちはクラッチミートのタイミングがつかめずショックが出ていましたが、「もっさりエンジン」と聞いていた割に回転の落ちはTwingoの三気筒より明らかに早く、シフト操作を少し素早くしてやるとスムーズに繋がるようになりました。まだまだセリカさんとのシンクロ率があがりませんね。
ステアリング:操舵力は重め。電動パワステ+リアエンジンのTwingoとの比較は酷ですが、同年代のMarkIIなら指一本で回せた記憶があるので、それと比べても明らかに重い。ただ高速クルージングでは直進安定性への寄与が大きく、これはこれで正解だと感じます。
乗り心地:路面の凹凸がシートを通じてダイレクトに伝わってきます。不快ではなく、むしろ路面を読んでいる感覚。ヒップポイントが低く、フロントウインドとの距離が近いため視界は良好で、細いAピラーも視界の妨げになりません。
ブレーキ:効きが良くないと聞いていましたが、実用域では問題ありません。ただし低速時に鳴くことがあり、今後の課題として様子を見たいところです。
高速域:能代南から秋田自動車道にはいりました。緩やかな左カーブを大きくロールすることもなく吸い付くようにトレースする感覚が気持ちよいです。いよいよ本線に合流、「見せてもらおう、WRCを制したターボ4WDの実力とやらを」と一人つぶやきながらアクセルを踏み込みました。100km/hクルージング時の回転数は3,000rpm。もう少しハイギヤードにするか、6速が欲しくなる場面もありますが、185PSの2リッターターボはその回転数でも余裕十分で、上り勾配でも失速感はありません。雨脚が強まる場面でもフルタイム4WDの接地感は盤石で、不安を感じる瞬間はありませんでした。法定速度+αの領域ではロードノイズも風切り音も許容範囲内。さすが流面形、という言葉がふとこぼれました。オートワイパーなんてついていないがキレよく雨粒を除去してくれています。
カフェインの呪い、発動
しばらく走ると尿意が……仕方ない、まだ走り出したばかりですがPAに寄るとします。念のため1分ほどアイドリングさせてからイグニッションをオフに。ドアを開けると「ボコン!」と結構激しめの音がしました。何事かとドア周りを確認しましたが、何も落下していないし異常もありません。首をひねりながらトイレへ駆け込みます。
トイレしかないPAなので一服だけして再び走り出します。トンネルに突入。オートライトなど当然ついていないので、細身で華奢なライトスイッチを捻ります。1、2回でメーターがグリーンに点灯、3回でライトがポップアップして点灯。LEDでもHIDでもない、優しいハロゲンの光が前方を照らします。明るくはないですが、Twingoもハロゲンバルブだったので問題はありません。
そろそろ音楽でも流すか。「Alexa、音楽かけて」のコマンドでお気に入りの曲を流してくれます。音量も「Alexa、音量下げて」と声で操作できますが、エアコン吹き出し口に取り付けているため距離があり、コマンドが届きにくいことがあります。もう少し近くに移設したほうがよさそうです。
そしてまた異変が訪れました。再び尿意です。さっき済ませたばかりなのに。仕方なくまたPAへ。秋田自動車道のPAはトイレしかないのに……
なぜこんなにトイレが近いのか。スマホで調べてみると、原因の一つに「カフェインの摂りすぎ」とあります。そういえば出発前に石川さんのところでコーヒーを一杯いただき、さらに強強打破(カフェイン150mg=コーヒー約2.5杯分)を飲み干しています。つまり短時間でコーヒー3杯分近くのカフェインを体に流し込んでいたのです。すでに膀胱は限界を超えていた。頭は冴え渡っているし眠気は皆無ですが、これだけトイレが近いと眠くなっている暇もありません。以降、ほぼ秋田自動車道のすべてのPAに立ち寄る羽目になってしまいました。
東北自動車道に入り、岩手県の金ヶ崎PAでようやく食事にありつけました。ご当地感はありませんでしたが、なぜか広東麺で胃袋を満たしました。しかし尿意の嵐は収まりません。食事前に済ませたのに食事後にまたトイレ。渋滞にはまったら耐えられるのか、という不安も抱えながら、尿意を感じたら即PAという繰り返しで東北道から常磐道へと入りました。


古のデートカー、エアコン事変
少し寒くなってきたのでエアコンをつけることにしました。TwingoもオートエアコンでしたがほぼマニュアルACみたいなものだったので、古のデートカーのオートエアコンがどんなものか少し楽しみです。
カチッとした操作感のスイッチを押し、吹き出しを足元に設定。風量はミニマム。
……あれ?上部の吹き出し口から冷たい風が出てきます。冷却水はもう十分温まっているはずなのに。足元は間違いなく温風が出ているのですが。「まじかぁ、いきなり故障かぁ……まあ足元は暖かいからとりあえず我慢するか」と冷風が出ている上部吹き出し口を閉じてそのまま走り続けました。
※後日、取説を確認して判明したのですが、足元から温風を出すと上部からは冷風が出る「頭寒足熱モード」を標準で備えていたのです。頭をシャキッとさせるための機能とのこと。ちゃんと理解してから使うと確かに快適で、長距離ドライブには理にかなっています。さすが古のデートカー、38年前のエンジニアも侮れません。
常磐道が見せたもうひとつの顔
笑えない無限トイレ地獄が続く一方、常磐道は私にまったく別の顔を見せ始めました。
相変わらず各PAにピットインしながら走っていると、線量計が現れました。両親の実家も福島県にありますが中通りなので東北道を使うことが多く、常磐道はあまりなじみがありません。震災前に家族旅行でスパリゾートハワイアンズ(私にとっては常磐ハワイアンセンターですが)に行って以来かもしれません。震災から15年(2026年3月執筆)、避難指示は解除されてきたものの帰還困難地域はまだ残り、支援が必要な地域であることをあらためて実感しました。南相馬から福島第一原発方面に向かうにつれ、徐々に線量の数値が上がっていきます。浪江・大熊町あたりでピークを迎えました。
笑いごとではない数字が、静かにそこにありました。
様々なエビデンスをもって安全とされているのでしょうし、被曝時間もわずかではありますが、やはり少し身構えてしまいます。福島は私にとっても第二の故郷。一刻も早い復興を願うばかりです。
195円/Lの洗礼
尿意と闘いながら常磐道を南下していると、セリカさんの空腹度が徐々に増してきます。高速のガソリンは高いし下道まで持つかなとも思いましたが、慣れない常磐道でこの先にGSがあるかもわからないため、中郷SAでピットイン(+トイレ)。案の定レギュラーが195円/L(2025年11月1日時点)と恐ろしい価格表示。これが現実か、と静かに受け入れながらENEOSアプリを登録したら5円引きクーポンが使えました。

レギュラーをセリカさんに飲ませると43Lを飲み込んで満タンとなりました。ここまでの走行距離は506.7km、燃費は11.8km/Lです。フルタンク60L、空になるまでまだ100km以上走れた計算になります。Twingoなら20km/L近く走るでしょうが、あちらは1,000cc・73馬力、こちらは2,000ccターボ+フルタイム4WDです。旧世代のスポーツ4WDとしては、なかなか優秀な数字ではないでしょうか。

予定9時間、結果11時間半
現在時刻は20:52、出発からもうすぐ9時間。当初の予定であればもう千葉に入っていてもおかしくありませんが、ほぼすべてのPAでピットインしていたのだから仕方ありません。ようやく尿意の間隔も長くなってきた気がします。残り200kmを切りました、ここから一気に行くぞ。
そう気合いを入れたものの、自宅に到着したのは23:26。当初9時間の予定が11時間半もかかってしまいました。気合いを入れるなら強強打破ではなく、せめてメガシャキくらいにしておけばよかったと思います。
今日一日で690kmを走破し、セリカさんの癖をひととおり知ることができました。シンクロ率、少しは上がった気がします。そしてEcho Autoは最後まで音楽をかけ続け、時々話し相手になってもらいました。メカ丸も助手席で時々一人遊びや鼻歌で和ませてくれました。頼りになる相棒たちです。道中を悩ませ続けた強強打破の呪いもようやく消え、眠気が忍び寄ってきました。昨日から風呂にも入っていないし、ひとっ風呂浴びて寝るとするか。
お疲れ様、セリカさん。おやすみなさい。





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